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BRCについて

難治性疾患発症の解明につながる遺伝子改変マウスを開発(ディン開発研究員)

BRCは、さまざまな業務に携わる職員に支えられています。BRCを構成する12の研究室の職員に、研究室での活動や日々の取組などについてインタビューしました。

今回お話しいただくのは、次世代ヒト疾患モデル研究開発チームで開発研究員を務める、ディン チャ テイフォンさん

ベトナムで医師として勤務後、自分の目指す研究のために来日。研究者として、3人の子どもの母として、ポジティブに毎日を送るディンさんに、取り組んでいる研究、大切にしているものについてうかがいました。

ディン チャ テイフォン開発研究員 写真1

モデルマウスで発症メカニズムの解明を目指す

患者や家族、社会的負担がきわめて大きい難治性疾患、加齢性疾患、生活習慣病。その発症メカニズムは、ほとんどがいまだ解明されていません。私の所属する研究室では、ゲノム編集技術を用いてヒト疾患の病態を再現したモデルマウスを開発・作製し、それを研究することで、発症メカニズムを解明することを目指しています。

具体的な研究の流れとしては、まず患者のゲノム情報・バリアント情報(※1)をもとに、ゲノム編集技術を用いて遺伝子改変マウスを作製します。その後、遺伝子型解析と表現型解析(※2)を行い、標的疾患の確認を行います。表現型解析に際しては、 日本マウスクリニック(※3)による網羅的な特性検査を利用し、合わせて臨床の研究者と連携して、より詳細な病態評価や治療候補物質の薬効薬理評価を行います。それらを行うことで、診断・治療・創薬の基盤となる前臨床研究の推進に貢献します。こうした過程を経て作製されたヒト疾患モデルマウスは、臨床試験や治療、創薬に役立てられています。

私たちの研究は、言ってみれば実験科学と臨床研究のギャップを埋めるもので、モデルマウスはヒトの健康をサポートする有用なアプリケーションです。

ディン チャ テイフォン開発研究員 写真2

ベトナムで医師として勤務後、研究者の道へ

私はベトナムのホーチミン市立医科薬科大学(UMP)を卒業後、UMPで医師および講師として2年間勤務していました。ベトナムの大学では医学と薬学を学び、専攻は薬についてでしたが、実は薬よりも人に関わる分野に興味があったのです。そんななか、発生生物学に興味を持った私は、その分野について学びたいという気持ちが大きくなっていきました。

筑波大学の博士課程教育リーディングプログラム(ヒューマンバイオロジー学位プログラム)を利用して来日した私は、ノックアウト(※4)マウスなどを使って対象遺伝子の役割を深く理解する研究に取り組みました。その後、筑波大学大学院医学研究科修士課程、博士課程(人間生物学専攻)を修了し、筑波大学実験動物学研究室、生命科学動物資源センター勤務を経て、2022年にBRCに入所しました。

そんな研究者としての私を支えてくれているのは、やはり家族の存在です。日本に来てから生まれた3人の娘は小学生と未就学児で、ときには急な病気で休まなければならなかったり、仕事をする上では大変なこともありますが、子どもたちと遊んだり今日あったことを皆で話したりする家族との時間は英気を養ってくれます。休暇の際には家族で旅行やキャンプなどに出かけてリフレッシュします。これまで富山や群馬、静岡、山梨へ行きました。新型コロナが5類に移行した昨年の夏はベトナムにも久しぶりに帰ることができました。

何事にも恐れずに挑み続ければ 実験の先には患者さんがいる

「ポジティブシンキング」「学び続け、挑戦し続ける」「外見と内面、新しい現象と自分の能力を発見する!」「ワークライフバランス」――これらは、職場や家庭で、私が大切にしたいと思っていることです。また、仕事と家庭の両立のために工夫しているのが、「効率的な時間配分」「家族の大きなサポートを受ける」「できるだけ早くやろうとする」「何でも楽しくやる」ということ。

そして、快適な時間を送り、自分の人生を充実させるためのキーワードが、「プラス思考」「人間関係が大事」「ストレスフリー」です。この3つは公私共通の私のモットーでもあります。

私が好きな著名人の言葉には、次のようなものがあります。どちらも自分の生き方に迷いや疑問を感じたとき、希望や勇気を与えてくれる言葉です。

「人生に恐れるべきことは何もない。あるのは理解すべきことだけだ」――マリー・キュリー
「幸福とは、望んだものを手に入れることではなく、持っているものを望んでいる状態のことである」――ラビ・ハイマン・シャハテル

これらの言葉からあらためて思うのは、人間は自分が知らないものに対して恐れを抱きがちな生き物ですが、対象に近づき、それを理解することで自らの恐れを捨て去ることができるということ。そして何事にも恐れずに好奇心や興味を持ち続ければ、科学的研究はその答えを与えてくれるということです。このことを胸に、私は自己発見のプロセスでもあると考えている科学的発見の旅を続けていきたいと思っています。

現在、私は神経変性疾患、特に筋萎縮性側索硬化症(ALS)に焦点を当てて研究しています。
ベトナムにいた当時、私は研究室で実験をする仕事が好きになれず、もっと病気で困っている患者さんと直接交流できたらと考えていました。しかし、目指す目標を持ってからは、自分の研究成果が患者さんに還元されることを意識することで、変わりました。
さらに、細かい作業を厭わずに孤独な研究に没頭して取り組めるタイプであるとも思うようになりました。

ディン チャ テイフォン開発研究員 写真3

私は今、この実験の先には患者さんがいる、自分は常に誰かとつながっている、と思いながら実験をしています。家族や周囲の人たちの力なども借りながら、近い将来、ALSモデルマウスの表現型と病態を調べるためのパイプラインを作れるよう努力していきたいと思います。

  • ※1 個人間のDNA配列の違いに関する情報
  • ※2 観察可能な形質を調べること
  • ※3 BRC・マウス表現型解析技術室が国内研究コミュニティに提供している網羅的マウス表現型解析支援サービス
  • ※4 遺伝子操作により特定の遺伝子機能を欠損(無効化)すること
プロフィール

  1. Dinh, Tra Thi Huong(ディン チャ テイフォン)
  2. 次世代ヒト疾患モデル研究開発チーム/開発研究員
  3. 2022年入所。現在は、難治性疾患や生活習慣病の発症のメカニズムを解明するため、これらの疾患の病態を再現したモデルマウスの作製等に携わる。

公開日:2024年5月21日