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BRCについて

センター長挨拶

センター長 城石俊彦の写真

センター長
城石俊彦

生命科学では、課題解決に最も相応しい研究材料を選択することが重要です。19世紀後半、エンドウ豆を材料にして美しい「遺伝の法則」を発見したグレゴリー・メンデルは、次に別の植物であるヤナギタンポポを使って追試をしました。しかし、残念ながら「遺伝の法則」を再現することはできませんでした。なぜなら、この種は無性生殖をするため交配実験には適さなかったからです。生命科学の歴史を紐解くと、適切な研究材料を使ったことで大きな発見につながった例で溢れています。古く生物学では研究材料は研究者個人が用意していました。また、研究材料は個人から個人へと提供されていました。今日、生命科学の分野では研究材料としてさまざまなバイオリソース(生物遺伝資源)が整備され、それらはバイオリソース機関で集中的に収集・保存され、研究コミュニティに提供されています。その理由は、その方が国や研究コミュニティ全体として経費や労力の面でバイオリソースの整備と提供が効率化できるからに他なりません。


我が国では、2001年に理化学研究所がバイオリソースセンター(BRC)を設置し、特に利用者の多い実験動物マウス、実験植物シロイヌナズナ、ヒト及び動物由来の培養細胞株、微生物、遺伝子材料の収集・保存・提供を行うバイオリソース整備事業を開始しました。また、増加する一方のバイオリソースを安定的に保存するための基盤技術開発事業を展開してきました。さらに、これらのバイオリソースの特性情報の整備や新規リソースの開発を行うバイオリソース関連研究開発プログラムにも力を入れてきました。事業方針としては、我が国で開発された独自のバイオリソースを中心に収集・保存し、世界でも特色のあるセンターとなることを目指してきました。品質管理に注力し、利用者が安心して利用できるバイオリソースの提供に心がけたことで、国内外の研究コミュニティの信頼を得ることが出来、今では世界三大拠点の一つに数えられるまでに成長しています。2018年4月1日からは、バイオリソース研究センター(略名はBRCと変わらず)と改称し、バイオリソースの利活用に関する研究開発も推進することになりました。このようなBRCの発展は、森脇和郎初代センター長とそれを継いだ小幡裕一第二代センター長が先見性を持って事業をリードしたこと、そしてBRC全職員の弛まない努力の結果です。


2019年4月1日に第三代のセンター長に就任いたしましたが、今般、ホームページを全面改訂するにあたり、改めて以下に抱負を申し述べます。BRCの事業においては、「信頼性」や「継続性」に裏打ちされた安定的な運営と同時に、科学の進歩を敏感に捉えた「先導性」を持った柔軟な運営が必要です。特に「先導性」については、学術の動向や社会や研究コミュニティのニーズを反映したバイオリソースの品揃えと組織運営にさらに努めたいと考えています。また、研究センターと改称されたことを踏まえ、研究コミュニティの言わば水先案内人として先進的なバイオリソースの開発を一段と強化し、さらにバイオリソースの利活用を促進する研究開発についても注力して行きたいと考えています。また、課題解決に最適な研究材料を利用者が選択することを支援するためのバイオリソース付随情報のなお一層の整備にも取り組んで行きます。研究基盤整備は一見地味な仕事と思われがちですが、研究の支援とともに、それ自体が科学の重要な一部であり、実は研究の最前線に位置するとも言っても良いでしょう。その自覚を持ってこれからもBRC職員一丸となって活動を進めて行く所存です。最後に、BRCのさらなる発展のために、皆様のBRCの活動への深いご理解と厚いご支援を引き続き賜りますようお願い申し上げます。