再生医療による革新的治療法の開発を目指し研究に励む(チャン研修生)
BRC は、さまざまな業務に携わる職員に支えられています。BRCを構成する12の研究室の職員に、研究室での活動や日々の取組などについてインタビューしました。
今回お話しいただくのは、iPS細胞高次特性解析開発チームに研修生として在籍していた、チャン ユンシェンさん。
既存の治療法では難しい難治性疾患改善への道を拓く可能性を持つ再生医療。その研究に取り組むチャンさんに、研究者を志したきっかけ、研修生としてBRCで経験したことなどについてうかがいました。
自然現象や植物を通して深めた研究への興味
子どものころは、家族でキャンプや釣りなどに出かけることが好きでした。キャンプ中には普段は見ることのできない自然現象や珍しい生き物を目にすることもあります。そういうとき、両親は私に図書館でそれらに関連する資料を探して調べてみるよう勧めてくれました。
リンゴについて調べたことも覚えています。どのように育つのか、種によって違いがあるのか、種類の異なるリンゴを食べてその種をそれぞれプランターにまき、観察したりしました。また、母の日に両親と一緒にいろいろなケーキやパンを作ったこともあります。材料によって膨らみ方も違うので、時間を見ながら。今思うと実験感覚だったのかもしれません。こうした経験を通して、いつしか将来は研究者になり、解明されていない現象について調査し、新たな発見をしたいと思うようになりました。
さらに、医療について新しい気づきを与えてくれ、考えるきっかけとなったのが、ジョディ・ピコーというアメリカの女性作家の作品でした。小学生のとき最初に読んだのが、映画化もされた『My Sister’s Keeper(邦題:わたしのなかのあなた)』。この本も、私が特に感銘を受けた『Handle With Care』もそうですが、この作家は常に議論の的となるような社会問題や人間の生き方を作品のテーマとして取り上げています。
特定の疾患を持つ患者に焦点を当て、その背景にある家族や倫理の問題などについて考察を試みる彼女の本を読みながら、私は現在開発している革新的な治療法が、社会的・倫理的問題を最小限に抑えながら、患者をどのように助けることができるのか、考えるようになりました。
自分が目指す医療分野研究の道を探してBRCへ

研究者を志して進学した台湾の大学では、微生物を研究していましたが、次第に人間の病気を学びたくなり、大学院では糖尿病を研究テーマとしました。
その後、台湾の大学と提携していた筑波大学での研究体験プログラムに2週間参加し、日本での医療分野の研究領域について知る機会を得ました。再生医療に惹かれ、筑波大学ヒューマニクス学位プログラムに申請して大根田修先生の研究室に入ることになりました。
BRCについて知ったのは、筑波大学大学院博士課程3年生のときです。ヒューマニクス学位プログラムの先生方とiPS細胞高次特性解析開発チームの林洋平チームリーダー(当時)が交流されていたこともあり、研修生として入所することになりました。
チームの内外で知識と経験を拡げ、研究に臨む
iPS細胞高次特性解析開発チームは、全国の研究所から寄託された疾患特異的iPS細胞の特性を解析し、その品質を評価したり、新たな加工iPS細胞株の作製を行っています。患者由来の細胞から直接作製されたiPS細胞を用いることで、従来は成し遂げられなかった新規治療法の創出を目指し、日々研究に励んでいます。
研究室の人たちは、チームリーダーをはじめメンバーはみんな優しくフレンドリーです。いつも一緒に仕事をしながら話し合っているので、実験で何か問題があったときも、すぐに相談することができます。チームリーダーや研究室の仲間は自分の経験を親切に教えてくれ、解決方法を一緒に考えてくれます。
BRCでは研究室以外の人たちとの交流の場となるイベントもいくつか用意されています。私はこれまでに学生懇談会と「Wakate BRC Conference(WBC)」に参加しました。こうした交流会を通して、他の研究室の人と話し、BRCについてさらに知ることができています。

また、研究室のチームリーダーは国内外のシンポジウムや学会への参加を推奨しており、そのためのサポートをしてくれます。研究室のメンバーと2023年に参加した沖縄で行われた再生医療に関するシンポジウムでは、この分野の他の研究者の前で自分の研究を発表する貴重な機会を得ました。そして自分の研究成果を向上させるための新しい知識を得ることもできました。
研究環境において、充分な細胞材料と先進的な機器が揃っているBRCは、研究作業を円滑に進められる非常に恵まれた環境だと思います。現在は再生医療を用いた革新的な治療法について研究、開発しています。将来的には開発している治療方法を臨床研究に応用して、病気で苦しんでいる人たちを救えるようになりたいと考えています。
プロフィール
- Yun-Hsuan Chang(チャン ユンシェン)
- iPS細胞高次特性解析開発チーム/研修生(取材当時)
- 台湾の大学で学んだのち、筑波大学ヒューマニクス学位プログラムへの参加を経て、2022年入所。2024年度より基礎科学特別研究員として勤務中。現在は、生命医科学研究センター 免疫器官形成研究チームに所属。
公開日:2025年02月27日