植物と子どもの成長を通して見つけた小さな変化に気づく喜び
(朝倉事務パートタイマーⅡ)
BRCは、さまざまな業務に携わる職員に支えられています。BRCを構成する12の研究室の職員に、研究室での活動や日々の取組などについてインタビューしました。
今回お話しいただくのは、実験植物開発室で事務パートタイマーⅡを務める、朝倉芳子さん。
「植物」のキーワードに惹かれて入所し取り組むことになった、モデル植物の増殖・交配を中心としたリソース整備という仕事。そのやりがいとワークライフバランスなどについてうかがいました。
さまざまな研究に利用されるモデル植物を 種まきから収穫まで見守る
この仕事についたきっかけは、「植物関係」というBRCの求人募集に惹かれたことでした。私の実家は田舎で自然が豊かだったこともあり、子どものころから植物や生き物全般に興味がありました。学生時代は教育学部の生物学研究室にいたのですが、就職活動の際には教職ではなくフィールドワークで外に出られる職場を志望し、ネイチャーガイドの仕事もしていました。その後、結婚と出産、転居を経て、「植物関係」の募集を目にしたのです。
実験植物開発室は、代表的な実験植物のシロイヌナズナを中心に、植物種子、植物遺伝子材料、および植物培養細胞の収集、保存、増殖、検査、提供に関わる業務を行っています。また、植物リソースに関連する技術の開発や普及のための活動にも積極的に取り組んでいます。
この研究室で私が現在担当しているのは、モデル植物であるシロイヌナズナとミナトカモジグサの寄託種子の増殖に関わる業務全般、シロイヌナズナ野生株の人工交配、研究員の方から依頼された植物栽培、共同研究の植物栽培と人工交配などの業務です。
植物栽培は、種まきから交配、種子採取まで、一通りすべて行います。まず、シャーレに種をまく培地を作ります。そこに種をまいて、芽が出て植え替えられる大きさまで育ったら植え替えていきます。最も気をつかう工程は手作業で、ある系統のめしべに別系統の花粉をつけて受粉させる人工交配で、顕微鏡をのぞきながら行う繊細な作業です。
花粉が少しでもはじけ飛んでしまうとシロイヌナズナは自家受粉して種子ができてしまうので、確実に別系統の花粉を受粉させる為には作業は花が咲く前のつぼみの状態から行います。おしべの先端がふくらんで花粉ができ始めたという微妙な変化を見つけ、交配のタイミングを自分で判断します。無事成功したら、水やりや温度管理など必要な世話をしながら種子の採取まで見届けていきます。
日々の積み重ねを大切に 植物の変化に気づく面白さ
今でこそこうした一連の流れを把握していますが、最初は本当に何もわからない状態からのスタートでした。慣れるまでは大変でしたが、上司と業務の進行を相談しながら進めることができたので、徐々に仕事に慣れることができました。
疑問に感じたことはすぐに確認し、相談できる雰囲気なので、初心者でも作業が苦にならず、悩まずに挑戦することができました。失敗しても、気づいた時点で報告するとすぐに明確な指示をいただけてリカバーできたことも。コミュニケーションがとりやすく働きやすい環境だと思います。
この研究室では、仕事は積み重ねて取り組むことに意味があると実感することが少なくありません。例えばある作業について教わったときに疑問に思ったことも、その次の作業に移ると「なるほど」と腑に落ちることが多かったりします。
扱っているモデル植物はライン(系統)がたくさんあって、世代によっても少しずつ違っているのですが、仕事をすればするほど自然に個々の違いが見えてくるのです。それに自分で気づけるようになると、やれることはどんどん増えていきます。
この仕事をしていて大切だと感じるのは、とにかく自分で記録、メモをしっかりとること。指示があったことや疑問に思ったことについてはすぐに以前のメモを確認します。バーコード登録でのデータ管理も導入され、記録体制としては以前より強固なものになりましたが、自分の手で細かな違いを記録したメモやノートが重要で基本になることは変わりません。
やりがいや面白さを感じるのは、植物の成長速度はゆっくりですが、毎日変化があるという点です。以前のシフトは週4日で水曜をお休みにしていたのですが、子どもも少し手が離れてきたので所属長とも相談し現在は勤務を5日に増やしています。毎日観察できるようになったことで今まで気づかなかった些細な変化にも気づけるようになり驚きました。
これまで自分は外に出ていろいろなものに興味を向けるタイプだと思っていましたが、この研究室に入ってからは、部屋のなかで起こる小さなこと、細部の気づきが面白く思えるようになりました。
子育てと仕事の両立を目指して 支えてくれる周囲に感謝
仕事も家庭も相互作用的に充実させられる方もいると思いますが、子どもがまだ小さいこともあって、私は職場を出た瞬間からスイッチを切り替えて家のことに集中するという毎日です。逆に、子どもと朝けんかしたときも開発室に来たらすぐに切り替えるように心がけています。ときにはお昼の時間に研究室の皆さんとわいわい話して気分をリセットすることも。仕事上もプライベートも気軽に相談できる先輩が職場にたくさんいることは、本当にありがたいです。
生き物を対象としているので全員が同時に休むことは難しい職場ですが、コロナ禍を機に、全体で支え合って維持する体制も整えられました。
私は実家が東北なのですが、昨年急に1週間帰省しなければいけなくなったときも、お水をあげてもらったり、そのほかの世話もしていただいたり、上司や他の栽培室の方にも大変お世話になりました。恵まれた環境と人との縁に感謝しながら、これからも周囲のみなさんとともに、研究室の植物と真摯に向き合い、自分にできることを少しずつ増やして業務に取り組んでいきたいと思います。
プロフィール
- 朝倉芳子
- 実験植物開発室/事務パートタイマーⅡ
- 2016年入所。学生時代は生物学研究室に所属。植物に関わる仕事ということでBRCの求人募集に応募。現在は、シロイヌナズナ野生系統などを対象としたリソース整備業務に携わる。
公開日:2024年11月25日