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BRCについて

疾患特異的iPS細胞による創薬基盤開発研究を技術と資質で支える
(澁川テクニカルスタッフⅡ)

BRCは、さまざまな業務に携わる職員に支えられています。BRCを構成する12の研究室の職員に、研究室での活動や日々の取組などについてインタビューしました。

今回お話しいただくのは、iPS創薬基盤開発チームでテクニカルスタッフⅡを務める、澁川蘭さん

iPS細胞を用いた創薬・病態研究の最前線を担う現チームで、その立ち上げ時から主要スタッフとして業務に取り組んできた澁川さんに、現在の仕事を始めたきっかけ、やりがいなどについてうかがいました。

澁川蘭テクニカルスタッフⅡ 写真1

チームのミッションと業務について

私たちの開発チームは、けいはんな地区(京都、大阪、奈良の三府県にまたがる関西文化学術研究都市)で活動しているチームです。BRCの細胞材料開発室が提供する疾患特異的iPS細胞を用いて創薬基盤開発を進めています。同意を得た患者さんから樹立された疾患特異的iPS細胞から、さまざまな器官の細胞を作製し、解析する方法を確立してきました。細胞の培養技術、遺伝子発現やたんぱく質検出、細胞機能などを解析、薬効を示す物質を選別するスクリーニング技術の開発など、病態解明や創薬開発のための基盤技術を開発しています。

このチームで私はテクニカルスタッフとして、疾患特異的iPS細胞の細胞培養を中心とした研究支援業務、ラボの消耗品や試薬の管理・発注などに携わっています。取り扱っている疾患特異的iPS細胞は、患者さんの大変貴重な細胞です。その方の思いをお預かりしている気持ちで、大切に培養しています。

動物好きから細胞培養の道へ iPS細胞の研究にも触れて

澁川蘭テクニカルスタッフⅡ 写真2

私はもともと、実験動物の飼育管理の仕事をしていました。それは動物が好きだったことから始めたのですが、転職を考えていたところ、「経験がなくても大丈夫、扱う細胞や研究については一から教えますよ」と声をかけていただく機会があって、現在の細胞培養の道に進みました。

最初に細胞培養に取り組んだのは京都大学山中伸弥先生の研究室でした。入ったタイミングがちょうどiPS細胞ができたという論文が発表されたころだったこともあり、当初、仕事は多忙を極めました。研究室では、細胞培養など一人の研究員の方のサポートを行っていたのですが、規模の大きなプロジェクトだったので、一人でこなすのは非常に大変でした。ですが、おかげで鍛えられ、短時間での技術取得に繋がり、仕事に早く慣れることができたかもしれません。

細胞相手の仕事を始めたころは多少とまどうこともありました。私は理系人間ではなく、数字も苦手です。前職の動物の飼育管理は、どちらかというと体を動かす仕事が中心だったのですが、細胞培養の現場は、それまで必要のなかった濃度計算など数字とつきあう場面が出てきたのです。

ただ、それもじきに慣れ、しばらくしたころ、ご縁があって現職のチームリーダーである井上治久先生の研究室(京都大学)に移りました。その後、現在所属する井上先生のチームがBRCで立ち上がる際に、テクニカルスタッフとして働くことになりました。扱う細胞がマウスからヒトの細胞になったという違いはありますが、仕事の内容は以前から取り組んでいたこととほぼ同じで、気づけば細胞培養の仕事は16年ほどになりました。

実験は料理と似ている? 仕事の特性とやりがい

細胞培養という仕事は、その内容を頭では理解できても、実際の作業イメージがわかない方も多いかと思います。私も同じで、未経験でもOKということで細胞培養の仕事の面接に行き、「料理は得意ですか」と聞かれたときは、狐につままれたような気持ちになりました。

最初はその質問の意味が全くわからなかったのですが、仕事をしてみるとまさに言い得て妙で、「なるほど料理と似ているな」と思いました。扱う材料の分量が決まっていて、料理のレシピのように手順書の通り進めるという点が似ているのですが、もう一度同じことをしましょう、となったときに、条件を同じにしないと同じ結果は出ません。実験では決まった通りに行うことが本当に大切な条件になります。

実は私は、料理でも目分量は避けるタイプで、きっちり細かくやらないと気が済まないところがあります。自分ではわかりませんが、“天職”と言われるとそうなのかもしれません。そもそも16年も続ける気はなかったのに苦になることもなく今も続けられているのは、向いていたのでしょうね。そういう意味では、この仕事は、細かい作業が好きな方や、料理の得意な方、ちょっとしたことにもすぐ気づく人にはおすすめです。

「ちょっとしたことに気づく」というのは、細胞は生き物なので、手順書通りに進めていても、実際に見て判断することが必要になるときがあるからです。手順書では次の段階に進むことになっているけれど、微妙に早いのでは、逆に遅いのではといった場面はどうしても出てきます。

また、培養をしているインキュベーターを開けた瞬間、ふっと臭いがすることがあります。そういうときもやはり何かが起こっていたりします。放っておくと拡がって全部がだめになってしまう場合でも、気づいてすぐに対処すれば、最小限の被害で済みます。ささいなことに気づけることは、その後の実験の行方にも直結するかなり大切なことなのです。

澁川蘭テクニカルスタッフⅡ 写真3

「決まった通りにきちんと作業を行う」、「微妙な変化に気づく」といったことに加えて、仕事において自分が大切にしているのは、とにかく落ち着いて丁寧に仕事をすることです。

培養の手順を具体的に想像できるよう、教えていただいたことはすべて手順書に落とし込み、スキル習得までに必要な項目を細かく記しておきます。そしてすぐに上手くできなくてもあきらめない、といったことを心がけています。

計画通りに培養を進めることは、実験の進捗を左右します。生きている細胞を相手にしている以上、現場では予期しないことも起こりますが、できるだけ円滑な業務遂行を目指してベストを尽くしていこうと思っています。自分の担当する仕事が最先端の研究を支えていることにやりがいを感じながら、今後も日々緊張感を持って細胞と向き合っていきます。

プロフィール

  1. 澁川蘭
  2. iPS創薬基盤開発チーム/テクニカルスタッフⅡ
  3. 2017年入所。京都大学でテクニカルスタッフとして細胞培養等支援業務を経て、現職へ。現在は、細胞培養を中心とした研究支援業務のほか、ラボの消耗品、試薬の管理・発注等に携わる。

公開日:2024年10月24日