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BRCについて

バイオリソースを最大限に活用し基礎研究応用の道を拓く
(大熊基礎科学特別研究員)

BRCは、さまざまな業務に携わる職員に支えられています。BRCを構成する12の研究室の職員に、研究室での活動や日々の取組などについてインタビューしました。

今回お話しいただくのは、植物-微生物共生研究開発チームで基礎科学特別研究員を務める、大熊直生さん

基礎科学特別研究員制度によりBRCのバイオリソースを活用しながら、産業利用につながる研究開発に取り組む若手研究者である大熊さんに、研究への取り組み方、今後目指すことなどについてうかがいました。

大熊直生基礎科学特別研究員 写真1

研究は可能性の模索 実験は想定を超える結果探し

私が研究者になりたいと思ったのは、実はそれほど前の話ではありません。大学は試行錯誤した結果、農学部に進みました。その後、周りの皆が修士課程に行くのに流されるような形で進学したのですが、修了する頃にはぼんやりと研究って面白いんじゃないだろうかと考えるようになっていました。その後いったん就職したのですが、自分は一般の会社で仕事をするより研究者のほうが向いているのではと思い、方向転換をして研究の場に戻りました。

研究をしていて面白いと思うのは、自分でテーマ、目標を考えて自分の裁量で進めていけることです。自分で考えるのが好きですし、考えて決めた目標のほうが先の見えにくい場面でもふんばることができます。実験をしてデータをとっていくとき、進め方は人それぞれだと思いますが、私は実験をやり始めて少し経った時点で、ゴールまで一度自分で結果に至るもっともらしい道筋を書いてみるようにしています。ここが研究の醍醐味でもあります。こうなったらこうなるだろうし、こういう結論になるのでは、という仮説を一度書いて試行錯誤を続けながらまた実験を続けていきます。

実験を進めていくと、最初の仮説が実際の結果とは異なることがほとんどです。当たり前ですが、仮説の通りにならないから間違いというわけではないので、得られた結果と合致する仮説を再構築しながら研究を進めて、再現性のあるゴールまで進んでいきます。仮説が予想に反したものだったとしても、そういった研究結果の積み重ねが自然科学の世界での小さなあゆみとなり、それはそれで価値のあるものになってくれれば良いなと思っています。

研究というのは、可能性を模索し、想像力を駆使しながら、知らないことを明らかにしていく作業であり、そこに面白さや、喜びがあるのかもしれません。研究は想定を超える結果探しをしてこそだと実感した瞬間でした。

大熊直生基礎科学特別研究員 写真2

BRCだからこそできるバイオリソースを使った研究

植物が生育する土壌は、地球上で最も微生物が豊富であり、菌根菌などの植物と共生する微生物がいます。植物-微生物の共生関係の理解が進めば、地球規模での持続可能な食料供給や環境負荷軽減への貢献が期待できます。BRCでは5種類の主要なバイオリソースを取り扱っており、種類の異なるバイオリソースを組み合わせた研究が可能です。

所属している植物-微生物共生研究開発チームでは、農業を取り巻く生態系の実態解明と産業利用につながる研究開発を進めています。

私は現在、この研究室で農業現場の環境変動が植物にどのような影響を与えているのかといった研究を行っています。自然環境下における土壌中の栄養状態や微生物の存在量などの環境条件や、植物の状態ほか、関連するさまざまな要素の数値を測定し、解析を行っています。

学生時代から行っていた研究テーマの主軸は植物で、そのころから農業にも興味があったので、農業に関連する植物の環境適応戦略について研究をするようになりました。植物に刺激、影響を与える要素として、土壌の解析についても以前から取り組んでいました。博士課程では植物の遺伝子組み替えなどを行い、植物の環境適応戦略について実験室の中でのみ研究をしていましたが、それだけでは農業の現場で植物がどう生育しているのかはわかりません。

部分的ではなくもっと全体的な研究をしてみたいと考えていたものの、そうした広範な研究ができそうな環境はなかなかありませんでした。半ばあきらめていましたが、今の研究室でそれに近いことをやっていることを知り、理化学研究所の基礎科学特別研究員制度に応募して、現在に至ります。

私の研究は、「バイオリソースを使う」研究であり、基礎科学特別研究員として採用される際は、BRCだからこそできるという思いを汲んでもらえたのではないかと思っています。実験植物開発室や微生物材料開発室の方々には、研究室の枠組みを超えて、植物の種やバクテリアの提供、遺伝子組み換えなど、サポートしてもらっています。

基礎研究に留まらない実用に向けた研究を目指して

私が大学院で最初に教わったのが、疑い深くなること。論文は極端な言い方をすると半分嘘だと思って読む、ということでした。論文を読み慣れていないうちはどうしても教科書を読むように素直に読んでしまいがちです。だけどそれはやめるように言われ、誰が書いたどんな内容のものだったとしても、「これは本当なのだろうか?」という姿勢で臨むのが大切だということを学びました。

大熊直生基礎科学特別研究員 写真3

確かに論文を一定数以上読むと、見えてくることがたくさんあって、一見もっともらしいことを論じていても、それを導き出すには心もとないデータであることは少なくないです。

論文を書くにあたって自分が大切にしているのは、研究の特にキモとなる部分は、誰もが納得できるように、できるだけ丁寧に緻密なデータを出していくということです。研究はアウトプットすることが一番大事だと考えているので、研究者に必要な疑い深さを自分に対しても向けながら、誰が見ても納得できる論文になるよう、淡々と、忍耐強く励んでいきたいです。

今後目指していきたいのは、基礎研究を研究室内だけで完結させず、農業など実益の伴う分野に応用していくということです。現在は、常に実用化を視野に入れて、作物生産に有用な菌のリソースの作成や、農業のデジタル化などを実現するための研究に日々取り組んでいます。

プロフィール

  1. 大熊直生
  2. 植物-微生物共生研究開発チーム/基礎科学特別研究員
  3. 2023年入所。学生時代より農業に関連する植物の環境適応戦略を主要テーマに研究。基礎科学特別研究員として、現在は、農業圃場から取得した植物—土壌—微生物の大規模データの統合解析と、そこから得られた知見の分子生物学的実験による検証等に取り組む。

公開日:2024年6月19日