第144回BRCセミナーのお知らせ
マイクロデバイスを用いた細胞操作技術の開発と生命科学研究への応用
日時:2017年 9月 11日(月) 16:00 ~ 17:00
場所:バイオリソースセンター1階 森脇和郎ホール
講師:和田 健一 先生
理化学研究所 前田バイオ工学研究室 協力研究員
要旨
MEMS (Micro Electro Mechanical System) に用いられる微細加工技術を利用して作製したマイクロデバイスを用いることで、従来の細胞生物学的なアプローチにない細胞操作が実現する。本発表では、発表者がこれまでに開発してきたマイクロデバイス、および、それらを用いた細胞操作に基づいて実施してきた生命科学研究として、以下の二つの研究課題を紹介する予定である。
1)細胞の形の変化/力学負荷の受容による増殖制御機構:
細胞が力学負荷を受容して振る舞いを変える現象―メカノセンシング―は、生命科学において注目を集める分野の一つとなっている。ここでは、マイクロデバイスを用いることで明らかにすることが出来たメカノセンシングの分子機構の一つを紹介する。具体的には、異なる大きさの細胞伸展領域(マイクロドメイン)を有するマイクロデバイスを用いて細胞の形を制御することによって(すなわち、外的応力を加えることによって)、細胞増殖制御を担うHippo経路の活性が調節されることを世界に先駆けて見出すに至った一連の研究成果を紹介する。
2)単一細胞間における細胞質移植技術の開発:
細胞融合によって―おそらく細胞融合に伴って移植される細胞質の働きによって―分化転換や初期化が生じることが知られている。この方法は迅速、かつ高効率の分化転換/初期化を実現する反面、核の混合に伴う染色体異常が生じる。そこで、核の混合を伴わない細胞質の移植を実現するマイクロデバイスを用いた新規細胞融合技術の開発を試みた。具体的には、幅約2 μmの微小な間隙(マイクロスリット)を介して細胞融合を誘発することで核の混合を伴わない細胞融合と、それに伴う直接的な細胞質の移植を実現した。本講演では、この細胞質移植技術から派生したミトコンドリアゲノムの改変技術の開発に関する我々の最近の試みも併せて紹介したい。