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転移因子多型の疾患リスクを解明
-見過ごされてきたゲノム多型に着目し、ゲノム医療に貢献-

理化学研究所(理研)生命医科学研究センターゲノム免疫生物学理研白眉研究チームのニコラス・パリッシュ理研白眉研究チームリーダー、小嶋将平基礎科学特別研究員を中心とし、バイオリソース研究センター 細胞材料開発室 中村幸夫 室長、野口道也 上級技師が参画する共同研究グループは、「転移因子多型1 」が皮膚病変などの遺伝的リスクであることを明らかにしました。 本研究成果は、これまで見過ごされてきたゲノム多型である転移因子多型に光を当てたもので、患者一人一人に合った診断・予防・治療を行う「ゲノム医療」の発展に貢献すると期待できます。

疾患の遺伝的リスクを調べるゲノムワイド関連解析(GWAS)2 には、一塩基多型2を用いるのが一般的で、技術的な問題から転移因子多型はこれまで用いられてきませんでした。

今回、共同研究グループはヒトゲノムデータから転移因子多型を正確に同定するソフトウェアを開発し、転移因子多型を用いたGWASを実施しました。バイオバンク・ジャパン(BBJ)3 により収集されたおよそ18万人における42疾患のGWASの結果、五つの転移因子多型が三つの疾患(ケロイド、2型糖尿病、前立腺がん)と強く関連することが分かりました。さらに、ヒト線維芽細胞を用いた転移因子のノックアウト(欠損)実験を行い、皮膚病変であるケロイド4 の重症化の原因遺伝子の一つであるNEDD4に存在する転移因子の挿入が、ケロイドの遺伝的リスクであることを明らかにしました。

本研究は、科学雑誌『Nature Genetics』オンライン版(5月11日付:日本時間5月12日)に掲載されました。


1転移因子多型:転移因子はゲノムに存在し、複製されゲノムの異なる場所に挿入される配列で、「動く遺伝子」や「トランスポゾン」などと呼ばれる。ゲノムの至る所に挿入される変異源で、遺伝子を壊したり遺伝子発現を変えたりする場合がある。人類史において近年に起きた挿入に由来する転移因子配列は一部のヒトのゲノムにしか見つからず、そのような転移因子挿入の個人間の違いを転移因子多型と呼ぶ。

2 ゲノムワイド関連解析(GWAS)、一塩基多型:一塩基多型とは、ゲノムの個人間の違いのうち、A、C、T、Gからなるヒトゲノム塩基配列の1カ所の違いを指す。ゲノムワイド関連解析(GWAS)は形質に対する遺伝的関連を知るための手法であり、一塩基多型を用いて解析するものが一般的である。疾患の有無や量的形質などを目的変数、多型の量的情報や各種共変量を説明変数にしてモデル化し、多型の関連を評価する。GWASはGenome-Wide Association Studyの略。

3 バイオバンク・ジャパン(BBJ):日本人集団約27万人を対象とした疾患バイオバンク。日本医療研究開発機構のゲノム医療実現バイオバンク利活用プログラム「利活用を目的とした日本疾患バイオバンクの運営・管理」において運営され、DNAサンプルや血清サンプルを臨床情報と共に保管し、研究者へ提供している。2003年から東京大学医科学研究所内に設置されている。詳細はバイオバンク・ジャパンのウェブサイトを参照。

4 ケロイド:皮膚の傷が硬化して盛り上がり、かゆみや痛みの症状が出た状態のこと。外傷・にきび・手術による創傷などの皮膚の損傷が発生のきっかけとなる。ヒト線維芽細胞の増殖がケロイドの形成につながる。