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坂口志文先生のノーベル生理学・医学賞受賞に寄せて

このたび、大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)特任教授 坂口志文先生が、免疫寛容の維持機構を担う制御性T細胞(Treg)の発見と、その分子基盤の解明により、2025年ノーベル生理学・医学賞を受賞されました。心よりお祝い申し上げます。

坂口先生は、米国から帰国後、新技術事業団(現・科学技術振興機構)さきがけ研究員として、理化学研究所ライフサイエンス筑波研究センターのラボで研究を続けられ、1995年に世界に先駆けて CD4+CD25+T細胞による自己免疫抑制機構を報告されました(J. Immunol., 155:1151-1164)。現在の理研筑波キャンパスで、このような歴史的発見につながる研究が行われていたことは、私たちにとって大きな誇りです。

ノーベル委員会の公式科学解説(Scientific Background 2025)では、この1995年の研究を「抑制性T細胞発見のルネッサンス(the renaissance of suppressor T cell research)」と位置づけています。この成果を端緒として、Foxp3遺伝子の発見(Brunkow et al., 2001)やTreg分化機構の確立(Hori, Nomura, and Sakaguchi, 2003)へと発展し、自己免疫疾患・アレルギー・がん免疫の理解と治療に革新をもたらしました。

坂口先生の一連の発見は、いずれも実験動物マウスによる精緻な免疫解析から生まれた成果であり、動物実験の科学的・社会的意義を改めて示すものです。免疫の恒常性維持という複雑な生体反応を理解するには、全身レベルで免疫ネットワークを再現できる実験動物モデルの解析が不可欠であり、今回の受賞はその重要性を社会に広く伝える契機となりました。

理化学研究所バイオリソース研究センター(BRC)は、ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)実験動物マウスの中核拠点として、国内で開発された遺伝子改変マウスをはじめ、多様な系統を整備・提供しています。近年の坂口先生の研究においても、本庶佑先生(2018年ノーベル賞受賞者)から寄託されたRbpj-floxマウス(RBRC01071)が利用され、自己免疫疾患の新たな治療法開発につながる画期的な成果が報告されました(Nature, 642:191-200, 2025)。

世界の免疫学の礎を築いたご研究が、ここ筑波の理研でも展開されていたことを深く誇りに思います。坂口先生のご受賞を心よりお祝い申し上げるとともに、生命科学の原理を探究する研究と、それを支える我が国初のマウスリソースの整備・発展に、今後も全力で取り組んでまいります。

理化学研究所バイオリソース研究センター
センター長
城石俊彦

坂口志文先生のノーベル生理学・医学賞 2025
– 免疫のバランスを守る制御性T細胞(Treg)の発見 –