抗菌薬に依存しない仔牛の飼養管理
-腸内環境の改善と温暖化ガス発生低減の可能性-
九州大学大学院 農学研究院の岡田 隼之介 大学院生、稲生 雄大 助教、髙橋 秀之 准教授らは、理化学研究所 生命医科学研究センターの宮本 浩邦 客員主管研究員、大野 博司 チームリーダー、環境資源科学研究センターの菊地 淳 チームリーダー、 バイオリソース研究センター 統合情報開発室 鈴木 健大 開発研究員、桝屋 啓志 室長、全国酪農業協同組合連合会の齋藤 昭 主席研究員らとの産学共同研究(千葉大学・千葉大発ベンチャー(株)サーマス)によって、抗菌薬に依存しない黒毛和種仔牛の飼養管理は潜在的に生産性に影響し、環境負荷低減に寄与する可能性を示しました。
成長促進を目的として家畜飼料に添加される抗菌薬は、薬剤耐性菌の発生を助長する恐れがあるため、世界的に使用が制限されつつあります。一方、抗菌薬を使用しない飼養管理が、黒毛和種仔牛の発育や腸内環境に及ぼす影響は不明でした。
そこで本研究では、抗菌薬無添加の代用乳、あるいは抗菌薬であるクロルテトラサイクリンを1%含有する代用乳を黒毛和種仔牛に給与し、発育成績や腸内環境に及ぼす影響を検討しました。その結果、抗菌薬の有無は発育成績に影響しませんでしたが、腸内細菌の構成割合と糞中有機酸濃度の関係性を変化させることが明らかとなりました。そこで、機械学習および因果推論による詳細な解析を行った結果、抗菌薬無添加の代用乳給与は、仔牛の生産性・健全性に寄与する有機酸(短鎖脂肪酸)である酪酸の産生に対して正の影響を与え、これには酪酸産生菌であるラクノスピラ(Lachnospiraceae)科などが関与していることが計算上、予測されました。一方、温室効果ガスであるメタンを産生する古細菌のメタノブレビバクター(Methanobrevibacter)属などが酪酸に対して負の影響を与え、同時に抗菌薬の投与も負の影響を与える計算データが算出されました。以上の点から、抗菌薬に依存しない黒毛和種仔牛の飼養管理は、仔牛の健全な発育のみならず、環境負荷の低減にも貢献する可能性が示されました。