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無精子症マウスから産子獲得に成功
-一次精母細胞による顕微授精技術を実用レベルまで改良-

理化学研究所(理研)バイオリソース研究センター遺伝工学基盤技術室の越後貫成美専任技師、小倉淳郎室長(開拓研究本部小倉発生遺伝工学研究室主任研究員)、生命機能科学研究センター染色体分配研究チームの京極博久客員研究員、北島智也チームリーダーらの共同研究グループは、効率が著しく低かった一次精母細胞を用いた顕微授精技術の改良を行い、卵子の細胞質サイズを小さくすることによって、マウス産子の出生率の大幅な改善に成功しました。

一次精母細胞は減数分裂前の雄性生殖細胞であり、多くの無精子症男性にもその存在が認められていることから、本研究成果は将来的に新たな不妊治療法の一つとなる可能性があります。

一次精母細胞を用いた顕微授精法による産子作出は既に 20 年以上前にマウスで報告されていますが、その出生率はわずか数%です。この原因として、一次精母細胞注入後の卵子内での減数分裂において染色体異常が高頻度に生じることが挙げられていましたが、その改善方法は見つかっていませんでした。

今回、共同研究グループは、卵子の細胞質サイズを小さくすることで減数分裂中の染色体の動態が安定する現象に着目し、一次精母細胞の顕微授精に小さくした卵子を用いることを試みました。すると、通常サイズの卵子に注入した場合と比べて、小さい卵子中では減数分裂時の染色体の異常が大幅に軽減されました。実際に得られた顕微注入胚を母体へ移植したところ、出生率が約20倍まで向上しました。さらに一次精母細胞で精子発生が停止している無精子症マウスからの産子獲得にも成功しました。

本研究は、科学雑誌『EMBO Reports』オンライン版(5月19日付:日本時間5月19日)に掲載されました。