哺乳類の雌雄生殖細胞が小分子RNA(piRNA)によって転位因子から守られることを証明
-ハムスターモデルを用いて雌性生殖細胞でのpiRNA機能を初めて確認-
哺乳類のゲノムには多くの転位因子(トランスポゾン)が存在しますが、その無秩序な発現はゲノムの安定性を破綻させるため、さまざまなメカニズムによりその発現が抑制されています。ショウジョウバエなど多くの動物の生殖巣においては、主にpiRNAという小分子RNAが転位因子の発現を抑制していることが知られています。哺乳動物においても、piRNAとその機能を助けるタンパク質(PIWIタンパク質)が雌雄の生殖細胞に存在しています。しかし、マウスでは例外的にPIWIタンパク質が雌性生殖細胞に存在しないため、PIWI欠損(ノックアウト)マウスは雄のみが不妊となり、哺乳類の雌性生殖細胞におけるPIWI-piRNA系の機能は不明でした。
今回、チェコ科学アカデミー分子遺伝研究所のズザナア・ロウバロワ博士課程学生、ヘレナ・フルカ博士研究員、フィリップ・ホルワト博士課程学生、ヨセフ・パスルカ博士研究員、ラデク・マリク博士研究員、ペトロ・スヲボダ教授と、理化学研究所バイオリソース研究センター遺伝工学基盤技術室の廣瀬美智子テクニカルスタッフ、小倉淳郎室長の共同研究グループは、新たに開発されたノックアウトハムスターの実験系を利用し、PIWI-piRNA系の上流で働くヘリカーゼであるMOV10L1を欠損したハムスターを作製しました。これらのハムスターは、雌雄とも不妊になり、PIWI-piRNA系は雄性だけでなく雌性生殖細胞の正常な発生にも必要であることが証明されました。今後、PIWI-piRNA系による生殖細胞ゲノムの正常性維持のメカニズムが明らかにされると期待されます。
本研究は、科学雑誌『Nature Cell Biology』オンライン版(9月6日付:日本時間9月7日)に掲載されます。