微生物生態系の安定性を俯瞰できる新手法
-腸内細菌叢の変動予測や制御への応用に期待-
理化学研究所(理研)バイオリソース研究センター統合情報開発室の鈴木健大開発研究員、桝屋啓志室長、慶應義塾大学先端生命科学研究所の福田真嗣特任教授、北海道大学大学院先端生命科学研究院の中岡慎治准教授の共同研究グループは、多種の生物がつくる生態系の安定性の変化を俯瞰的に捉えるためのデータ解析手法を開発しました。
本研究成果は、疾患の治療や健康維持、農業技術開発など、多様な分野におけるバイオリソースの新たな利活用につながると期待できます。
生物の腸内の共生微生物がつくる生態系は、凸凹地形に置かれたボールのように安定状態にとどまる傾向があり、いくつかのタイプに分かれます。この地形が年齢や食生活に伴い変化することで、その安定状態は移り変わります。しかし、これまで生態系の安定性の変化を俯瞰的に捉えることは困難でした。
今回、共同研究グループは、生態系の安定性を表す地形の変化を観測データから推定し、体系的に分析するための手法を開発しました。この手法をマウスの腸内細菌叢データに適用したところ、加齢過程を通じて2通りの安定状態があり、安定状態Aは若齢期に現れやすく、熟齢期にかけて組成が段階的に変化すること、安定状態Bは熟齢期以降にAからBへ変わりやすくなることなどを明らかにしました。この結果は、加齢によりマウスの腸内細菌叢の組成が変化する仕組みの一端を表していると考えられます。
本研究は、科学雑誌『Ecological Monographs』オンライン版(5月12日付)に掲載されました。